日記

日記です

1012

 今日は高校の頃同級生だった人の演劇を観に行った。演劇作品は多くの人から成り立っているものだろうからこの言い方が正確なのかはわからないけど、僕の開発している将棋ソフトの名前の由来である『海底』を作った人だ。

 正直言ってあまりスマートな演劇ではなかったと思う。脚本を3つ繋ぎ合わせて作ったらしく、どこかその歪さが伝わってくるようなところがあった。でもそれで良いのかもしれない。ある意味これは大学の卒業公演だそうだ。僕は彼の高校の卒業公演も観ている。最後明るい締め方にしたのは、彼が成長したことの証なのだろうか。

 彼の演じる作品は怒鳴るシーンが多い気がする。普通の演劇がどういうものか知らないけど、僕の中では演劇とは怒鳴るものになっている。もうちょっと優しい言葉が溢れるようになって欲しいと思うこともあるんだけど、おそらくそうするとひどくつまらないものになるのだろう。そしてきっと、演技として怒鳴るのは心地よい体験なんじゃないかな。

 僕はこの公演の予約をするときに偽名を使った。特に意味はない。強いて言うなら彼に観に行くことを知られたくなかった。「友人だから観に行くのではなく、この人の作品だから観に行くのだ」という理屈を後からくっつけたが、別に披露する機会はない。終了後、ついスマートファンのアプリでメッセージを送ってしまった。小さい劇場だったし僕がいることには気づいているだろうと思ったのだが、そんなことはなかったらしい。こういうところで徹底できないから、僕の理屈は嘘なのである。

 最後に一点だけ。終わった後に観客が演者と話す場が設けられるのが恒例となっているが、僕はそれがあまり好きではない。良い作品であったならば余韻を大事にしたくなるし、あまり面白くないと思った場合には—さすがに終わった直後の演者にそれを言う気にはならないから—嘘をつかなければならなくなる。どちらにしてもあまりハッピーではないと思う。いや、一番好きではないのは、そこに馴れ合いのような雰囲気を感じてしまうからだろうな。

 偽名で予約して隅っこで鑑賞して挨拶もせずにすぐ帰る。僕はそういう客だった。僕は彼に対してそういう態度しか取れない気がする。メッセージさえ送らなければ完璧だったんだけどな。

 僕が一番好きな遊びは「かくれんぼ」なんだろう。帰り道を歩いているとき、そう思った。